第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
それから、父や兄弟たちとの憩いの後に初めて会った祖父からは
「身分などと言うくだらないものにこだわってお前たちの幸せを壊して申し訳なかった。お前の母にも墓前で毎日詫びている。本当に悪かった。」
と謝罪を受けた。
光の死と八人の孫の存在を知った氏由の父は、己の行動を心から悔いた。そして、死後くらい側にいさせてやりたいと光の墓を城のすぐそばの寺に移し、精一杯の弔いをした。祖父は毎日、光の墓を参り手を合わせ詫びていたのだった。
「氏由があんなに立派になったのは光さんのおかげだ。放蕩息子をまともな人間に変えてくれた恩人にひどい仕打ちを…。お前にも苦労をかけたな。」
そう話す祖父に
「自分の境遇を恨んだこともありましたが、それが無ければ今の幸せがなかったと思うとこれで良かったのだと思います。あの苦労があったこそ、生涯の主君と出会い、妻にも出会えた。それだけで全てが報われました。俺が俺で良かったと今は思えます。だからもう、悔やまないでください。母ちゃんはきっと、弔ってもらえたことも兄弟たちを育ててもらえたことを喜んでいます。」
「…そうか…」
祖父は短くそう返すと、目頭に手を当てた。
「わしの命はもう長くない。死ぬ前にお前に会えて良かった。お市が『氏道と秀吉は顔が良く似てる』と教えてくれなければ会えずに終わるところだった。光さんが会わせてくれたのかもしれぬな。」
「お市様が…」
実は氏由たちが秀吉を探し当てられたのは、秀吉の従兄弟にあたる北条氏直の妻である市の何気ない一言がきっかけだった。信長の妹である市はもちろん北条家に嫁ぐ前から秀吉と面識があったため、藤之助に
「氏道様は織田軍の豊臣秀吉と良く似てらっしゃるわ。まるで兄弟みたい。」
と言ったのだ。
「…豊臣秀吉?」
可能性が少しでもあるならと、秀吉を調べることにした藤之助が秀吉が藤吉郎であることを確信するのに時間はかからなかった。それからすぐに信長の元を訪れ、事情を説明した藤之助は無事に秀吉と再会できたのだった。
「縁とは不思議なものですね。」
話を聞いていた舞が呟くと、秀吉も祖父も大きく肯いた。