第3章 時を越えて〜素性〜
硬直し動けなくなった私は明智光秀に抱えられ
「煤だらけの顔と体をきれいにして来い。」
と湯殿へと運ばれた。
待ち構えていた女中さん達に裸にされ洗われて着替えさせられたところで、やっと脳と体の回線が繋がり、自分の状況に気付く。
「舞様、大変お美しいです!」
「本当に麗しい。こんなに麗しい方は見た事がございません!」
過剰すぎるお世辞を否定する元気も気力もなく、言われるがまま。
着せ替え人形のように、着付けられ化粧され、髪を整えられてなされるがままじっとしていた。
見るものも身に付けるものも何もかもが現代とは違う。
(やっぱりタイムスリップしたんだ…)
それは確信へと変わった。
「さぁ、こちらへ。」
女中さんに案内されて進んだ廊下の先にあるのは、現代で言う宴会場のような大きな部屋。
「お連れいたしました。」
そう言って平伏したのちに頭を上げた女中さんに促され、歩を進めた部屋の中には、信長様をはじめ武将達が勢ぞろいしていた。
入って来た私を見て、なぜかみんな驚いた顔をしている。
そんな中、
「おー、舞!お前、めちゃくちゃ綺麗になったな!」
ピューツと口笛を吹いた伊達政宗がそう言いながら、側へ寄って来た。
そして当たり前のように手を取り歩き出し、信長様の前まで連れて来られ
「頭さげるんだぞ。」
コソッと伊達政宗に耳打ちされた私は、正座して額を畳につけた。
「舞。頭を上げよ。」
そう声が掛けられ頭を上げれば、こちらを射抜くようにじっと見つめる緋色の眼。なぜか逸らす事ができずに見つめ合う。
「貴様、何者だ?なぜ本能寺にいた?」
見つめ合うまま発せられた言葉に我に返り、慌てて視線を逸らした私は黙って下を向いた。
「質問に答えろ!」
厳しい声に目を向けた先には、私を鋭く睨む豊臣秀吉。それを見て
(ああ、怪しいヤツだと疑われているんだ)
と認識する。
(なんて答えれば…)
必死に考えても言葉は浮かんで来ない。何て答えて良いのか分からない。
(『500年後から来ました』なんてきっと信じてはもらえない。信じてもらえないどころか、頭がおかしいとしか思われない。下手な事を言ったり沈黙を貫けば、その場で斬られてしまうかもしれない。織田信長だもん。『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』だよね……)
どう考えても逃げ道はない事に思い当たった私は、残りわずかであろう我が命を思い、涙した。