第1章 私
10分くらいか。
私は綺麗でない歌を、見えない透明人間に聞かせてみせた。
透明だから、反応は解らないけど。
「ねぇ、〇〇〇。今、どこにいるの…?」
君の名前を呼んだって声はしないし、どこにもいないことは分かってる筈なのに。
はぁ。と息を吐いて、ブランコを見る。
揺れるのに飽きたブランコが、座って。と言うような気がした。
「変わってないね…。あれから10年経つのにね。」
君と出会ってから、数日前に別れるまで。
10年は短かった。
あっという間に好きになって、あっという間に居なくなって。
「…会いたい。会いたいよ。」
今度は拭う間もなく、塩辛い涙は地面に落ちた。