第7章 嫉妬(銀時裏夢)
あまりにも醜悪な感情に、遼は自分が恐ろしくなった。
こんなこと、知られたらどんな言い訳だって通用しないし、離婚になってもおかしくはない。
でももし、と考えてしまう。
「遼、またゆっくり話そう。今度は無理矢理したりしないから」
寂しげな銀時の表情に遼は一瞬絆されそうになるが、ただ一言「帰って」と呟いた。
銀時が居なくなった後、遼はのろのろと服を着て居間を片付ける。
「あ、洗濯物片付けなきゃ」
庭に出て洗濯物を取り込んで畳み始めた瞬間、涙が溢れた。
拒みきれなかった自身への怒りと情けなさと、ほんの少しの哀愁。
銀時と恋人であった時間は短かったが、幸せだったしそれなりに将来を考えていた。
けれど、時代がそれを許さなかった。
そう諦めていた筈なのに。
「悔しい」
声を上げて泣いていると、携帯電話が着信を伝えて反射的に取ってしまう。
「あ……」
『遼?
どうした、大丈夫か?』
「んっ、ぐすっ、大丈夫、です」
『大丈夫じゃねぇだろ!どうした、何があった!?』
電話口の向こうの狼狽した声に、遼は慌てて声を整えた。
「あの、ごめんなさい。えっと、あ、本を読んでて」
『本?』
「感動して泣いてただけなんです」
『なんだ。じゃあ、大丈夫なんだな?』
「はい。ありがとうございます、十四郎さん」
ささくれていた心が、すうっと落ち着いていく。
「あの、どうかしたんですか?」
『ん、ああ、晩飯までには帰れそうになったから、用意だけ頼む』
「わかりました。あの……」
『どうした?』
「気を付けて下さいね。それから、待ってますから」
どこか切なげな遼の声に、土方は優しく「わかった」と答えた。
『いい子で待ってろよ』
「はい」
土方の声に、遼は腹の奥がざわりとするのを感じて頬を赤らめる。
電話が切れた後も、胸がドキドキしている自分に気付き、遼は改めて確信した。
恐ろしいほどの執着心と、ただただ醜い自分の感情を。
この計略がうまくいけば、きっと幸せになれる。
醜悪で、純粋なこの想いを昇華するには、きっとこの方法しかないのだろう。
──おわり──