第20章 愛、屋烏に及ぶ【近藤裏夢】
数日後、屯所を訪れた遼は、いつものように沖田から手痛い歓迎を受けていた。
「おいアンタ、近藤さんと朝帰りしたそうじゃねぇか」
「どうして沖田さんがご存じなんですか?」
「やっぱりか。ったく、どこが箱入りのお嬢さんだ。とんだあばずれじゃねぇか」
「あばずれって、何でしょうか?」
「帰って辞書で調べてみな。アンタの名前が載ってるだろうから」
しれっと返した沖田に、遼は苦笑しつつ「そうします」と頷く。
「それよりも、今日は沖田さんにお伝えしたいことがございまして」
「は?」
「私、やっと覚悟が決まりました。ありがとうございます」
微笑む遼に、沖田は訝しげに眉をひそめた。
「アンタに礼なんて言われる覚えがねぇ」
「私には、ありますから」
「変な女」
呆れた様子の沖田と対照的に、遼は笑顔を崩さない。
けれど、その笑顔は出会った時とは明らかに違っていて、沖田はますます苛立っていった。
最初から気に食わない相手ではあったが、近藤との婚約話が進む毎に、ますます嫌いになっていった。
もやもやとしていると、廊下の向こうから近藤がやってくる。
「あれ、総悟と遼さん、こんな所で何やってるの?」
「ごきげんよう。沖田さんにお話を聞いて頂いていました」
「嫌味言われてたの間違いだろ」
「え、ん、どっちが正しいの?」
困惑する近藤に、遼は「さあ」と笑顔で首を傾げた。
「まぁ、どっちでもいいよ。ありがとな、総悟」
「俺はこいつが嫌いなんで」
「あら、私は沖田さんの事が好きなのですけれど」
「え?」
「は?」
遼の思いがけない告白に、近藤と沖田は驚きの声を上げる。勿論、沖田は最大級に嫌そうな顔で。
「え、うそ、俺の事嫌いになったわけじゃないよね?違うよね?冗談だよね???」
「冗談ではありませんわ。私は、勲さんの事を愛しているので、沖田さんが好きなのです」
「は?」
慌てふためく近藤に、遼は自信たっぷりに微笑んだ。
「愛、屋烏に及ぶと申しますでしょう?」
「誰が烏だ」
「え?何?どういう意味??」
首をひねる近藤に、「お調べになって下さい」と微笑む遼を見ながら、結局遼には敵わないのかもしれないと、沖田は諦めにも似た溜息をついた。
ー終ー