第17章 企画【〇〇しないと出られない部屋】
阿伏兎ver.
「副団長、どうして私たちが閉じ込められているのでしょうか?」
「さぁな。つーかお前さん、何でそんなに冷静なんだ?」
「慌てた所で、体力の無駄ですから。それに……私は今、団長が居ない解放感で身も心も充実しています」
恐らく本心なのだろうが、とんでもない事を口にする遼に、阿伏兎は若干呆れつつも同情した。
神威お気に入りの遼は、事ある毎に後始末に右往左往しており、心安まる暇も無かったのだろう。
「お前さんも若いのに苦労性だよなぁ」
「副団長には負けますよ。でもまぁ、トラブルに自ら突っ込んでこそ第七師団ですからね」
「違いねぇ」
から笑いを返す阿伏兎に、遼が何かを言いかけた時、壁に掛けられたモニターが点灯した。咄嗟に身構えた二人だが、表示された文字を見て唖然とする。
「ハグしないと出られない部屋にようこそ?」
「何だそりゃあ」
「続きが……二人がハグをすれば扉が開きます。だそうですよ」
「ハグって、俺と遼でか?」
「他に居ませんからそうでしょうね」
淡々と告げた遼は、阿伏兎の前に立ち、「じゃあ、しましょうか」と両手を広げた。
「遼、お前さんには恥じらいってもんは無いのか?」
「少なくとも、副団長相手にはありません」
「成る程な。じゃあ、恥じらえるようにしてやる」
ベッドの縁に座った阿伏兎は、悪戯を思いついた子どものようにニヤリと笑う。
「俺を阿伏兎って呼べたらハグしてやるよ」
阿伏兎の言葉に、遼は「わかりました」と答えかけて口を閉じた。よく考えなくても、今まで阿伏兎を名前で呼んだ事など無く、改めて呼ぶとなると気恥ずかしさが勝ってしまう。
「え、あの、副団長」
「阿伏兎」
本当に名前を呼ぶまで協力しない気だとわかり、遼は諦めて覚悟を決めた。
「あ、……阿伏兎、ハグして下さい」
頰を紅潮させ、消え入りそうな声で告げた遼に、阿伏兎は盛大に溜息をついた。
(失敗した。俺の方が恥ずかしい)
遼を抱きしめながら、心の底から後悔する。
(団長と女取り合うなんざ真っ平御免なんだがなぁ)
音を立てて開いた扉を見ながら、腕の中のぬくもりに、阿伏兎はやれやれと肩をすくめた。