第5章 好きな人
「「……………」」
オリオンさんの言葉に、副団長さんとマルクさんが目を瞬いた。
「レイ、お前こいつを勧誘するのか?」
何故かグレンさんがレイ?とやらに声をかけた。
「まさか!私じゃありませんよ」
レイさんって誰だろう、と思っていたら副団長さんが返事をした。
…あれ?グレンさん、副団長さんと知り合いなのかな?
グレンさんと副団長さんがマルクさんの方へと視線を向ける。
「へ?俺?!」
二人の視線を感じて自分を指さしたマルクさん。慌てて胸の前で両手を左右に揺らし、頭も振って必死に否定した。
「お、おおお、俺にそんな権限が有るわけないじゃ無いっすか!やめて下さいよ、その今にもお仕置きしそうな目で俺を見るの!」
マジで怖いっすから!と口にしたマルクさんに、なら誰が騎士へと勧誘するのかとここにいる皆が首を傾げた。
「ちょ、ちょっと待てよ!話しが違うじゃないか!お前達、俺を勧誘する為にここに来たんじゃないのかよ!?」
自分が思っていた反応と全く違う騎士の態度に焦り始めたオリオンさんが、半ば怒り気味に叫んだ。
「いえ、私達は貴方を勧誘する為に来た訳では…あぁ」
何かを察したらしい副団長さんが笑みを浮かべて近付いてきた。オリオンさんがビクリと怯える。
けれど副団長さんはオリオンさんには目もくれず、グレンさんの前へと立つと姿勢を正した。
ブーツの踵を床へとぶつけ、カツンと音を立てる。
次いで胸元に拳をぶつけると、頭を下げた。
それを見たマルクさんが慌てて副団長さんと同じ仕草をする。
騎士の挨拶だ…
「団長、お迎えに上がりました」
頭を下げた副団長さんが僅かに顔を上げ、私を見て悪戯に笑った。
「無事にご回復され何よりです」
態とらしい仰々しさにグレンさんが嫌そうに舌打ちしたのが聞こえた。
…え?団長?
私を初め、リリアン、オリオンさん、そしてことの成り行きを見守っていた宿に泊まっている皆が首を傾げた。
すると副団長さんがわざとらしく、持って来たグレンさんの剣を差し出しながらもう一度口にした。
「グランハイド騎士団、グレン・オーキッド騎士団長。ご無事で何よりです」
………
……………
…………………
「「「ええええええええーーーー!!!」」」
ご近所さんが何事かと駆けつけてしまうくらいの大合唱が黒猫亭に響き渡ったのだった。