第4章 竜
我に返った私も慌てて立ち上がろうとしたけれど、薬のせいで力が入らず倒れてしまった。
「まっ、て下さ…」
私の事など振り返りもせず駆けて行くオリオンさん。
どうやら、私は逃げられそうに無いみたい。
私は唇を噛み締めると、竜へと向き直った。
あのまま、オリオンさんの好きにされるよりは竜に殺されてしまった方がマシかもしれない。
そう自分へと言い聞かせてみたけれど、やっぱり怖くてカタカタと体が震えた。
子供の頃も、死を覚悟した事があった。
私は手の震えを止めようと祈るようにして手を組んだ。
そして頭を下げて目をギュッと閉じる。
そして、思い浮かべたのはグレンさんの姿。
グレンさん、もう一度会いたかった…
ギャオウ、と鳴いた竜が私へと狙いを定めた。そして大きく首をくねらせると、ググッと喉を鳴らし。
ゴボッと液体を吐き出した。
私は来るであろう痛みを想像して体を固くした…
ビシャッ──
液体が弾ける音が聞こえた。
けれど、来るはずの痛みは何時まで待っても来なくて…
「…もう大丈夫だ」
鼻をくすぐる、土と太陽の匂い。私を抱き込むようにして竜の液体から私を護ってくれたのは…
「グレン…さ…」
掠れた声で名前を呼ぶと、グレンさんはボサボサの髪の合間から僅かに見えた瞳を細めて微笑んだ。
それを見て、私は我慢していた涙が堪えきれなくなった。
「グレンさ、グレンさんっ…」
ポロポロと涙を流しながら縋り付くと、優しく頭をポンポンと撫でてくれた。そしてグレンさんは私をそっと抱き上げると、離れた樹の幹へと私をもたれさせた。
「、もう大丈夫だ、後は俺に任せておけ」
沢山の足音が聞こえて来た。
駆け付けてきたのは騎士団の…
「マルク、彼女を安全な所へ!」
「はっ!」
グレンさんにマルクと呼ばれた人が私の方へと駆けて来た。この人、宿で扉に顔をぶつけていた人だ…
「他の者は必ず毒回避の魔法をかけろ。吠えた後に毒の攻撃が来るぞ!被ると後をひく、絶対に毒を受けるなよ!」
グレンさんの指示に、返事をした騎士達が一斉に動き出した。一糸乱れぬ陣形をとり竜へと攻撃をしかける。その先頭に立っているのは…グレンさんだった。
「さぁ、安全な場所まで案内するっす」
マルクと呼ばれた騎士に抱えられ、私はその場を後にしたのだった。