第1章 プロローグ
怖い…
怖い怖い…
一緒に運ばれて来た男の子は、私の横で血塗れで倒れている。
怖いよ…
私の主人になるはずだった人が怒りで顔を真っ赤にして、血塗れで転がっている男の子を蹴飛ばした。
そして今度は私を指さして、喚き散らしている。
その命令に従う様に、お付きの人が血で濡れた剣を私に向けた。
きっと、私も彼のように殺されてしまうのだろう。
盗賊から私を庇って死んでしまったお父さん、お母さん…せっかく助けてくれたのに、ごめんなさい。
私は手の震えを止めようと祈るようにして手を組んだ。
そして頭を下げて目をギュッと閉じる。
ふと、昼間に会った男の人の事を思い出した。
服もマントもボロボロの血塗れで、傷だらけで倒れていた人。見ていられなくて、こっそりと荷物から盗んだポーションと水と、私の隠しておいたご飯を彼へとあげた。
あの後、盗んだのがバレて酷く殴られたけれど…
私の代わりに彼が無事で居てくれれば良いと、不意に何となくそう思った。
死んでしまったら、お父さんやお母さんの元へ行けるだろうか…
剣が風を切る音が聞こえた。
私は来るであろう痛みを想像して体を固くした…
キン──
突然、金属のぶつかり合う音が響いた。
そして、来るはずの痛みは何時まで待っても来なくて…
「…こっちだ」
言葉はただそれだけ。
彼は私の手を引いてくれた。
私の目に、ボロボロのマントが揺れる背中が見えた。
そうして彼は、私をその場から連れ出してくれたのだった。