第2章 逢魔が時
「…っ……」
子どものように可愛いらしい容姿。
人を襲わないという証拠。
そうは分かっていても、咲の表情はどうしても固くなり、こわばってしまうのだった。
(どんなに可愛くても……それでもやっぱりこの子は鬼……)
そんな咲の様子に気付いた禰豆子は、その場で足を止めると、少し眉を下げて小首を傾げた。
その姿に、咲の胸はズキンと痛む。
折れそうに細い首。
心配するような困り顔。
分かっている、分かっている、と咲は心の中で何度も繰り返した。
だがどうしても、禰豆子に対する警戒心を解くことが出来ないのだった。
「むー……」
禰豆子が寂しそうな顔をする。
そんな二人の様子を見つめながら、炭治郎もまた胸が傷んだ。
だけど、昨日の夜、杏寿郎としのぶから聞いた咲の過去のことを思うと、この反応も仕方のないことなのかもしれないと感じるのだった。
「ごめんね……ごめんね……」
眉を下げた咲が何度も禰豆子に謝るのを聞きながら、炭治郎はそっと胸を押さえた。
(少しずつでいい。焦らず……ゆっくり慣れていってくれれば……)
そう思いながら炭治郎は霧雲杉の背負箱を持つと、禰豆子の元へと歩いて行ったのだった。