第19章 その後のはなし
杏寿郎に抱き抱えられたまま湯に浸かった咲は、「ふうーっ」と大きく息を吐き出した。
少し熱めのお湯が、道中の疲れを溶かしていってくれるように心地良い。
「気持ちいいですねぇ」
そう言って杏寿郎の顔を見上げると、杏寿郎も咲同様に幾分緩んだ顔をして「うむ!実に良い湯だ!」と言った。
あぐらをかいた杏寿郎の膝の間に座るような格好で、咲はゆったりと、まるで湯の中で漂うようにして体を温めたのだった。
部屋に戻ると、すでにふた組の布団がぴったりと寄り添うように敷かれてあった。
二人が風呂に行っている間に、きっと とき が敷いてくれたのだろう。
ひさ といい、とき といい、本当におもてなしの達人である。
思っていた以上に長風呂をしてしまい、部屋の隅に置かれた行灯にはすでに蝋燭の柔らかい灯りが点されていた。
温泉で義足を外し、その後は付けていなかった咲は、浴衣姿のまま今も杏寿郎の腕に抱えられている。
「……」
杏寿郎は何も言わずに布団まで歩いていくと、あぐらをかいてその足の間に咲の体を下ろした。
目元を少し赤くした杏寿郎と正面から目が合い、ニコッと微笑まれた後しっかりと抱きしめられた。
鼻をうずめた肩口から、湯上りの良い香りがする。
浴衣の上からでも伝わってくるポカポカとした体温。
(あぁ、本当に、杏寿郎さんと結婚したんだなぁ…)