第18章 共に
気の遠くなるような長い道のりだった。
咲がたどり着いた時、そこには膝をついた炭治郎達と、肩で息をする杏寿郎と不死川の姿があった。
皆ボロボロで、辺りの木々の荒れ具合から、相当激しい戦闘が行われていたことが伺える。
(杏寿郎さんも、いる…!!)
不死川だけでなく、杏寿郎まで駆けつけてくれたのだと分かり、咲の心にさらに勇気が灯る。
余裕の表情で立っていた甚振が、ゼェゼェと荒い息を吐きながら木の陰に立っている咲に気がついた。
その視線の動きを追った不死川も、咲の姿に気づくと、
「咲っ!?来るんじゃねぇっ!!」
と叫んだ。
だが咲はそれに応えることなく、突如として甚振に向かって走り始めた。
「えぇ?どうしてぇ?まさか自分から喰われに来たのかぁ?」
まっすぐに向かってくる咲に、甚振は不思議そうな顔をしたが、すぐに舌なめずりをして、まるで幼子を迎え入れるかのようにして両手を広げた。
「飛んで火に入る夏の虫♪」
「不死川っ!!」
ダッと杏寿郎が駆け出した。
その目を見て、不死川もハッとして走り出す。
ニヤニヤとして中腰になって咲を受け止めようとしている甚振。
一切躊躇することなく真っ直ぐに向かっていく咲。
甚振の四本の腕に絡め取られそうになる直前、咲は握っていた右手を思い切り突き出した。
「ぐぇっ」
大きく裂けた口に思いがけず右手を突っ込まれ、甚振は後ろ向きに転がる。
ごろんっ、と土の上でダンゴムシのように丸くなる姿。
その動きからですら、ふざけていることが伝わってくる。
「いたたた、ひどいなぁ~。折角優しく絞め殺してあげようと思ったのにな」
そう言って起き上がった甚振はニマァと笑ったが、ふと口を止めて舌で口腔内をもごもごとし始めた。
「んん?」
プッと何かを吐き出す。
コロンと地面に転がったもの。
それは咲が常に持ち歩いている藤の花の香水の小瓶だった。
甚振のよだれでべったりと濡れたそのガラス容器に蓋はついておらず、中身は空っぽになっていた。
「げ、げえっ!!!?」
突然、甚振が喉を押さえて激しくえずき始めた。