第16章 つりあい
もともと入院する必要もないほどの軽症であったため、咲は数日後には退院した。
玄関まで見送りに出てきてくれたアオイと、なほ、きよ、すみ、が少しだけ心配そうな顔をする。
「咲さん、本当に気をつけてくださいね!」
「炎柱様じゃないけれど、私達も本当に本当にびっくりしたんですよ!咲さんが運び込まれてきて…」
「心配です~っ!」
「うん、うん…みんな、心配かけて本当にごめんね」
耐え切れなくなったのか、みーっ、と泣き出してしまった三人の幼い少女達の体を、咲は眉を下げながら抱きしめる。
「咲…本当に…三人と同じことしか言えないけれど、くれぐれも気をつけるのよ?」
アオイの目にもうっすらと涙が浮かんでいるのを見て、自分がどれだけみんなから心配してもらっているのかを痛いほど感じて、咲の目にも涙が浮かぶのだった。
四人に見送られ、明るい日差しの元、咲は蝶屋敷を後にした。
今回の一件は杏寿郎からお館様に報告されており、しばらくの間咲には日中の任務が割り当てられることになったのだった。
基本的な業務内容は変わらないが、夜間に出歩くことは念のためしばらくは禁止された。
あの不思議な鬼のことは、杏寿郎が見舞いに来てくれた時に伝えていた。
「ふむ…信じがたいが、話を聞く限りでは、その鬼は咲の身を案じてくれたということになるな。落ち着いて会話ができるところや戦いぶりを聞いても、相当の実力を持った鬼と思われる。……もしかしたら、十二鬼月だったのではあるまいか」
「十二鬼月……」
口に出してみて、咲は背筋に冷水を流し込まれたようにゾクリとする。
だが確かに、そう考える方が自然な気がした。
あの押しつぶされてしまいそうな威圧感、圧倒的な戦闘能力…。
あれは並の鬼のものではなかった。
杏寿郎の言う通り、確かにあれは十二鬼月なのだろう。
だが、それならばなぜ尚の事、稀血である自分を食わなかったのだろうか。