第12章 雨宿り
そんな杏寿郎の笑顔を見て、咲はへにゃりと笑う。
それから、何故か少し残念そうな顔をして、僅かに体を引いた。
「いつまでも寄りかかっていたら、杏寿郎さんが重いですよね」
遠慮がちに離れていこうとする体に、思わず杏寿郎はくっ、と腕に力を込めてそれを制していた。
「咲、もう少しこうしていてくれないか?……俺が、まだ寒いのだ」
咲は一瞬ポカンと口を開いたが、すぐに嬉しそうな、そして心配するような表情になった。
「杏寿郎さん、お寒いのですか!?すみません、私ばかりがぬくぬくと甘えてしまって…。さぁ、もっと囲炉裏の近くにお寄りになってください!」
「いや、このままで良いのだ。もう少しこのまま、俺の腕の中にいておくれ」
杏寿郎はにっこりと笑って、再度咲の肩を優しく引き寄せた。
また杏寿郎の体にぴったりと寄り添うような格好になった咲は、少しの間じっとしていたが、そっと杏寿郎の胸に頭を預けてきた。
その顔を杏寿郎はチラリと見下ろす。
ふっくらとした頬は、相変わらず桜色に色づいていて、髪の間から覗く小さな耳も同じように赤みが差している。
(可愛い。できることなら、このままずっと手放したくない。いつまでもこうして、俺の側にいて欲しい)
杏寿郎は緩み始めた唇を、再度きゅっと結び直した。
(早くあの鬼を倒さねば。咲の心を救うために、そして、俺自身のためにも)
パチパチと燃える囲炉裏の火を見つめている内に、いつの間にか咲が小さな寝息をたて始めていた。
小鳥のように温かい体を抱きながら、杏寿郎はそっと、咲の髪に唇を寄せたのだった。