第1章 海王ポセイドンの憂鬱
ポセイドンは宝石には興味がなかった。どんなに輝く石も海の美しさにはかなわないと自負している。それに、彼を魅了して止まないものが別にあった。
「やはりいないか」
ポツリと呟いた。ポセイドンは人魚を探していたのだ。はるか前、沈没したての船で出会った人魚はとても美しく、ポセイドンの心を掴んだ。だがその時ゼウスからの呼び出しがあり、早急に行かなければならなかったのだ。帰って来た時には人魚の姿はなかった。
「もう一度会いたかったのだがな」
会ったらこの気持ちを伝えようと思っていた。深いため息をついてその場を去るポセイドン。名も知らぬ人魚に恋をしたと知れれば、ゼウスやハデスはからかうだろう。それでも。
「会いたい……!」
会えないとなると会いたい気持ちが強くなる。海を巡回するのもそれが目的なのだ。だが最初に見た時以来、全く会えない。
「キュー、キュー!」
「ん?ゼウスが呼んでる?……はーーーっ。分かった」
ポセイドンはねぐらの水晶球を覗き込んだ。ゼウスの顔が映る。
『やーっとつながったよー。もー、ポセちゃん何してたのー?』
「何の用だ?ゼウス」
『えーっ?冷たいなー。せっかく相手になってやろうとしてるのにさー』
「余計なお世話だ。用がないなら終わりにするぞ」
『ちょ、ちょっと待ってよ!それ、お前の悪いくせだよー?あのさ、近々船が難破するっていう夢を見たんだよ。それをお前に伝えようと思ってさ』
「お前の見る夢は、絶対そうなるからな。ふん、海の恐ろしさが分かるだろうさ」
『報告はそれだけ。んじゃね!』
水晶球が何も映さなくなった後もしばらくそのままにらみつけていたが、何かに気づいたようだ。
「そうだ!もしかしたらあのマーメイドが来るかも知れない!」
そう思うと胸が高鳴る。見れば股間まで反応していた。
「おっと。お前まで喜んでるのか、ポセイドンボーイ。だがお前はステイだ。お前が喜んでいたらマーメイドに逃げられてしまうかも知れん」
とは言うものの、一度勃ってしまうとなかなか静まってはくれない。
「仕方ないな」
パンツをずらし、自身を握った手を動かす。思い出すのはあのしなやかな姿態と美しい髪。
「……っはぁっ!マーメイド…!」
想像の中の人魚がポセイドンの腕の中でその身をくねらせる。可憐な唇からは妖艶な声が漏れる。
「マーメイド!」
