第8章 ひと月の性愛
「……ふわ、あぁぁあ」
「なーに、美和、でかい欠伸して」
オフィス内で隣のブースの同僚が、パーテーション越しに顔を出して笑いかける。
「どうせまた彼氏のとこでしょ」
「うん……今晩もだけど」
「ひゃー! 凄いわね。 ホント見かけによらず肉食だわあんた」
時計を見ると21時を回っている。
早く帰りたいが、明日のクライアントとの打ち合わせの資料だけはまとめておきたい。
「肉食、なのかなあ……」
「まあでもあの彼、滅茶苦茶格好良いもんね。 いいなあ、優しいし。 たまに迎えに来てくれるじゃない?」
もっと鈍くて冷たい男だと思っていたが、確かに瑞稀は優しかった。
あの豪邸に住んでるだけにやはり育ちが良いのか、ナチュラルにレディーファーストみたいなものが染み付いていて、階段を先に歩かせたり荷物を持ったりという事を普通にする。
『彼氏のとこ』
彼氏……彼氏なのかな?
美和は『付き合う』という言葉が嫌いだ。
ただ惹かれて自然にそうなる。
男女はそうあるべきだと思っていた。
あたしは強い男が好き。
美和は直感で瑞稀を選んだ。
瑞稀も同じ様にそうで、あたしとこうしてるのだと思っている。