第13章 Mirror
「逸巳おじさん、眠れない」
逸巳が戸口に目をやると、一樹が目を擦りながら泣きそうな顔で立っている。
「一緒に寝よう。 おいで」
ベッドの片方を空けるとトタトタと一樹がそこに潜り込んだ。
「なんか弾いて」
「Ed Sheeran は?」
「ママの曲だね。 いいよ」
Photograph。
澤子はこの曲が好きだった。
そして瑞稀はそんな澤子を眺めるのが好きだった。
瑞稀そっくりの意志の強そうな一樹の目が段々とろんとして、やがてくうくうと寝息をたて始めた。
逸巳はゆっくりとギターを置く。
一樹も来年は小学生だ。
じきに二人の三周忌にもなる。
仕事にかまけて、あっという間だった。
だけどバラの花が咲く季節になるといつも思い出す。
咲き乱れる花の中で二人が婚約した時、
奇跡的に授かった一樹の事、
澤子が逝ってしまった事、
瑞稀の事を。