第11章 感情は航海の帆を張る
「差し出がましい事をして申し訳ございませんでした」
小田家の執事、ワズは主人に頭を下げた。
「……いや、あれは最善だった。 瑞稀はもう血液も口にしなくなっていた。 奴はあのまま終わらせるつもりだったと、お前も分かっていたのだろう」
「瑞稀様はあの通りのお方ですから」
「揃いも揃って頑固者ばかりだな。 この家は」
高雄は苦笑して顎に手をやった。
「崎元澤子、……彼女の行動は意外だったが。 ワズ、お前は彼女をどう見る?」
「私の口からは何とも」
「良い、言え」
「……亡き奥様に似てらっしゃいます」
「妻はもう少し気の強い女だったぞ」
『澤子は弱くない』
そういえば、瑞稀は言っていたな。
美和と瑞稀は似ていた。
二人がすんなりうまく事を運ぶのは分かっていた。
澤子と瑞稀はまるで逆だ。
プラスとマイナスは強烈に惹かれ合うが、それ故にぶつかる。
うまく作用するのはほんの稀だ。
「……私の当てが外れたかな」
まあいい。
どうやら瑞稀には彼女が生命線である事には変わりはない。
高雄が最初に『欲』を覚えたのは亡き妻だった。
「そのうち会ってみよう」
高雄は安堵したように呟いた。