第9章 対話、それぞれの都合
「色々……教えてね?」
「……」
「なんでまたため息?」
「可愛すぎて」
「かわ…」
「顔見ていい?」
「無理」
「俺も無理」
腕を緩めると動揺している様子の澤子が瑞稀を見上げている。
また顔が赤いのかな。
唇の端にそっと口付けるとびく、と反応した。
「無理強いしないって……」
「うん、ごめん」
「あと、もう一つ、こっちの都合」
「瑞稀さんの……?」
「そしたら終わっちゃうんだろうけど」
「……それなら聞きたくない」
「じゃないと進めない」
「嫌よ」
「頼む」
「瑞稀さん、好きよ」
縋るように澤子が言う。
自分の顔を澤子に見られたく無かった。
泣きそうな気分で瑞稀は澤子の髪に顔を埋めた。
やっと見付けた宝物みたいだ。
ようやく気持ちに気付いたけど、伝えたら俺達は終わるんだろう。
だけど誤魔化したまま向き合えない。
出来れば、俺が澤子を守りたかった。
瑞稀は呟くように言った。
「……俺の家系は人殺しだ」