第9章 対話、それぞれの都合
ベランダでしゃがみ込んでいる瑞稀の隣に澤子の気配を感じる。
久しぶりに澤子に会ったけど……
くっそ可愛い。
ピンク色の唇とかキスしたい。
なんだこれ。
澤子って大概男慣れしてなさそうだけど、これじゃ自分も人の事言えないんじゃないか。
色々やらかしてしまうのはこっちの問題だ。
美和の件で思考にも余裕が出来たのかな。
『欲』とか抜きにして分かった。
「……後からでいい? また謝るの」
「え?」
瑞稀は澤子の身体を引き寄せて抱き締めた。
「み………」
「やっぱり柔らかい、澤子」
「は、離し……」
「俺が嫌?」
少し身体を離すと俯いたままの澤子が首を横に振り、涙声で言う。
「私が、慣れて無いだけ……」
もう一度きつく抱き締める。
あったかいし、猫かなんか抱いてるみたいだ。
さらさらの髪からいい匂いがする。
「じゃ、慣れて」
「なんで……」
「ちゃんと謝るから」
「いい……」
「もっと色々しても?」
「無理……心臓持たない」
「ゆっくりなら?」
「今、顔見ないで」
「我儘だな」
「それ瑞稀さん……」
「はは」
「もぉ……」
それでも澤子の震えて強ばっていた身体が段々落ち着いてきた。
本人の言う通り、慣れてないんだろう。