第20章 現実はナイトメア
「ユニコーンの角!?」
アズールの喫驚の声が、静かな海中に響き渡る。
ローズと3人は、再び海の中に身を投じていた。無論、北の深海を汚染から救う為である。
『これがそう』
「どうも。拝見します」
彼女は、隣に座るアズールに角を手渡す。
ローズとアズールは今、ある乗り物で移動中なのだ。その乗り物とは…馬車ならぬ “ ウツボ車 ”
「…納得いかね」
大きな大きな二枚貝の殻に、ローズとアズールを乗せている。その貝殻に くくりつけた紐を、フロイドとジェイドが引いているのだ。
「まぁまぁ。この方が格段に早いですからね」
ジェイドが言うように、前回よりもはるかに短時間移動が実現されていた。
唇を尖らせるフロイド。それをなだめるジェイドを他所に、ウツボ車に乗った2人は話を続ける。
「本当にこんなものが、この世に存在して…いやユニコーンなんて御伽噺の中の生き物なはず」
角を凝視しながらブツブツと呟くアズールの手から、それを取り上げる。
『あのね。私からすれば、貴方達 人魚族だって 御伽噺の中の生き物だったの!
その人魚がいたんだもん。ユニコーンがいたって不思議じゃない』
アズールが、たしかに。と唸ったその時。笑顔で貝殻を引いていたジェイドが口を開く。
「たしかユニコーンという生き物は、純潔の乙女にしか心を開かないとか……」
奥歯にものが挟まったような物言いだ。
『…なーにが言いたいのかしら?』
「アハッ!それなのに、よく角くれたねぇ。お姫様はオレと “ あ〜んなこと ” したのに」
「僕との “ あの夜のこと ” も、どうやらノーカウントのようです」
双子は、貝殻を引きながらも同時にローズを見て言った。その表情は、非常に楽しそうだ。
『……』
対して彼女は、何も言葉を返さなかった。
「え?…え?あ、貴方達…一体何の話をしているんですか!?僕だけを除け者にするのはやめろ!」
アズールの悲痛な声だけが、また辺りに響いたのであった。