第18章 穢れた海とマーメイド
ローズは自分の足元に目をやった。すると、そこにいつもあるはずの物がなかった。
それは…人の足。
足の代わりに、いまスカートから出ているのは…ヒレだ。エメラルドグリーンの美しい鱗に覆われた、ヒレが彼女の下半身となっていたのだ。
『わ、わー…私、人魚みたい…』
ローズは目をパチクリさせて、身体を曲げる。そして自分の半身となったヒレを見つめる。
フロイドが、彼女のヒレを両手でヒラヒラと弄んだ。
「みたいじゃなくてぇ、お姫様は人魚になったんだよ?」
「と言っても、勿論 一時的なものですのでご安心を」
ローズは、こうなった要因に思い至っていた。
遡る事、数十分前。馬車の中で彼女は口にしていたのだ。魔法薬を。
おそらくはあれが、人間を海洋生物に変貌させる魔法薬。それならそうと、事前に説明が欲しかった。しかし相手は他ならぬこの2人…。ローズは既に諦めの境地を悟り、抗議の声をあげる事はしない。代わりに、不服そうな瞳で2人を見つめるのだった。
「なーにお姫様 ガンつけてくれちゃってんの?まぁ全然怖くねぇけど」
『べ、べつに』
顔を傾け、ニタァ と笑うフロイド。途端に身を縮こめるローズ。さながら今の2人は、捕食者する側とされる側だ。
「あ、そうだぁ♡お姫様、人魚になったばっかで まだ上手く泳げないでしょ?オレも初めて陸に上がった時は歩くの苦労したからさぁ。
だからオレが、練習手伝ったげる」
『…え?』嫌な予感
「鬼ごっこしよっかぁ♫もちろんオレが鬼ね〜?全力で逃げねぇと……捕まったらどうなるか分かんないよ?」
『ひ、』
ローズはフロイドが話し終えると同時に、文字通り全速で逃げた。得たばかりの尾ひれで水を掻き、凄いスピードで移動する。
「お、スゲぇじゃ〜ん!ぜってぇ捕まえよ!アハはははっ」
だんだんと小さくなるフロイドの笑い声を聞きながら、ジェイドは独り言ちた。
「…あれが、陸の言葉で言う 火事場の馬鹿力。ですか。よほど身の危険を感じたのでしょう」ふふ