第1章 はじめての世界
ぱちりと目を開けると暗く殺風景な場所から一転。
私は木造りの可愛らしい家の前で立っていた。
そろそろと、首を回して辺りを見渡してみる。
風に揺れる枝の新緑に運ばれた、澄んだ空気の匂い。黄緑の葉っぱの隙間には淡い色の花と、澄んだ青い空にぽっかりと丸く白い雲が浮かんでいる。
どことなくゆったりとした田舎、という感じがする。
私が今立っている所から遠くにある、田んぼらしきものの向こう側には人の歩く姿も見えた。
ただし頭の上には長細い耳が認められる。あれは人、なのかな。ヒトの形の動物……?
彼らの家のあるところ───────
周辺にはこの家以外は建物らしき物は無い。
少し考えた挙句、私は結局目の前の家にお邪魔してみることに決めた。
こじんまりと、でもがっしりした造りのお家。
「こ、こんにちは!」
若干緊張してしまったため上ずった声が出てしまった。
扉を軽く二回ノックしてみると、案外ぶ厚い扉らしく、鈍く控え目な音がした。
「やあ、いらっしゃい。空いてるよ」
それから間もなく、戸の向こうから軽やかな男の人の声が聞こえた。
ほっとして、恐る恐るそのドアを中へと押してみる。
抵抗が急にふっと軽くなり、内側から残りを引いてくれたのだと気付く。
同時に、背の高い若い男性が私を迎えた。
その人物と目を合わせ、思わず息を飲んだ。
「────……!!」
わあ! キレイな人だ。
細身で、すんなりとした全体の印象と白い肌。
ひとつに纏められた銀の髪は胸にかかっている。
くすんだ青、グレーに近いその薄い色素のせいか、少し物憂げに見える瞳。
その涼しげな目元から下。
すっとした筋と、直線的な頬の線から不思議に繊細で優美な印象も。
そしてその次に目に付いたのは、濃い灰色の三角の耳と同色の細長い尻尾。
こんな人にそんなのがくっついてるのはなんだか可笑しいのだけれど、私も人のことはいえない。
それよりもこの特徴は私と同じ、『元』が猫の人の様な気がする!
しばらく無言でその人をじっと見てしまうも、知らずのうちに私の鼻がひくひくと動いてしまうのはやはり猫の習性なのか。
先ほどか家の中から、温めたお肉やみずみずしそうな何か。 今まで嗅いだことのない、ふくよかで甘い、美味しそうな匂いがしていた。