第5章 ただそこで生きて
ーーー本当にギリギリのところだったと思う。
あと1秒俺が判断を迷っていたら間に合わなかったと思う。
俺は、の持っていたカッターナイフを半ば無理やり取り上げて、部屋の隅へぶん投げた。
何も考えてなかったから、カッターナイフの刃を思い切り掴んだ俺の右手は血まみれになっていた。
今はそんなことどうでもいい、痛みも感じない。
それよりもに聞きたいことがあったから。
俺が簡単にカッターナイフを取り上げることができた理由。単に俺が男で、より力が強いからというのは確かにある。
でも、あの時のは明らかに死ぬことを迷ってた。恐れてた。
止めて欲しいと言わんばかりに、弱々しい力でカッターナイフを握っていた。
俺がカッターナイフを迷わず取り上げて、投げ捨てて、お互い床に飛沫していた血やら、今出たばかりの血やらでとにかく血塗れになっているということなんて忘れて、ただを抱きしめた瞬間、のからだの力が少しだけ抜けた気がした。
「大丈夫だ」と確信できた。
「は、
何がそんなに怖いんだ。
死にたくなるほどに、何を恐れてるんだ。
は自分のことを馬鹿だと言うが、それなら俺も相当な馬鹿だ、俺には、のことがわからない。
が不安に思うことや怖いと思うことは全部俺が消してやるから。護るから。俺はそのために生きてるんだ。
教えてくれないと、わからない。
俺の方が出来損ないだよ、察しが悪くてすまない、
だから教えてくれ。
が今、1番嫌だと思うことはなんだ?」