第3章 玉狛支部
ボーダーの基地から歩いてしばらくすると空閑と雨取に会う。先程の会議の結果を空閑にも伝えておく。三雲の処分は保留になったが空閑のブラックトリガーが狙ってくる可能性はまだ否定できない。
「……これからどうすればいいですか?迅さん」
「うーん、そうだな。いろいろ考えたけどこういう場合はやっぱシンプルなやり方が一番だな」
少し考える素振りを見せながら言ってきた迅の言葉に、シンプルなやり方とは、と円含め三雲と空閑も首を傾げる。
「遊真、おまえ……ボーダーに入んない?」
「は?」
「おれが……!?」
眠くてボーッとしていた頭は迅の言葉により、急激に覚醒する。今何を言ったんだ。ネイバーをボーダーに入れると言ったのは聞き間違いだろうか。そう思ったが迅は真面目に考えているようだった。
「おっと、別に本部に連れてくわけじゃないぞ。ウチの支部に来ないかって話だよ」
「あー、なるほど」
知っている人は限られているが玉狛支部のエンジニアはネイバーだ。それに遠征経験者も多いから空閑がネイバーだからと言って騒ぐ人はいないはずだ。
「とりあえずおためしで来てみたらどうだ?」
「ふむ……オサムとチカも一緒ならいいよ」
「よし、決まりだな」
しばらく話をしながら歩いていくと川の真ん中に建物が見えてくる。元々は川の何かを調査するための施設だったが使われなくなったため買い取って基地として建てている。迅が端末を確認すると隊員は出払っているようだが何名かは中にいるようなので入ることにする。
「ただいまー」
扉を開けて中へ進むと玄関ホールには小さい男の子がカピバラに乗っていた。その光景に三雲と空閑は驚く。迅に「陽太郎」と呼ばれたのは林藤陽太郎という五歳児で玉狛支部に住み込んでいる。
「今だれかいる?」
「……しんいりか」
「新入りか、じゃなくて」
「陽太郎、久しぶり」
円が顔を見せて片手を上げて挨拶をすると陽太郎も笑顔で片手を上げながら「よっ!」と返す。迅の声が聞こえたからか、上からまた一人の声が聞こえてくる。
「迅さんおかえりー。あれっ。え?何?もしかしてお客さん!?」
「栞ちゃんも久しぶりー」
「円ちゃんも来たの!?やばい!お菓子ないかも!」
慌ただしく騒ぎながら駆け下りてくるのは玉狛支部のオペレーターである宇佐美栞だった。