第10章 偽りの夫婦
ひとり残され、口づけられた箇所を手でそっと押さえて座り込む。
いつもあの人の意地悪に翻弄されて、その度にこの湧き上がる感情に振り回される。
もう誰かを求めることも求められることもしたくなかったのに、否応なしに前を向かされた。
これ以上、光秀さんに近づいてしまったら、私は間違いなく底なし沼からぬけだせないだろう
このぐちゃぐちゃな感情の正しい名前なんか、知りたくない。
(嫌い、嫌い、嫌い……。あなたが、大嫌い……っ)
私は『嫌い』のひと言を自分に言い聞かせると、必死にこの感情を塗りつぶした。
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