第10章 偽りの夫婦
私の方へ身体を傾ける光秀さんに、声を殺しながらも、最大限の抗議の意志を込めて耳打ちする。
「夫婦って言いましたよね、座長さん……! なんて説明してあるんですか?」
「おや、言ってなかったか? 俺とお前はこれから、旅芸人の夫婦になる。それが一番自然だからな」
(はぁっ……?!)
指南役とその弟子から、噂を利用し仮初めの恋人へ。許嫁のフリを経て、ついには偽装夫婦に–––
(光秀さんの策略で、底なし沼にずぶずぶ引っ張り込まれてる気がする……)
「あらためてよろしく頼むぞ、茜。お前の夫としてな」
気が気じゃない私に光秀さんが向けたのは、この上なく楽しげな笑みだった。