第29章 【変化】
その日の晩、クリスは珍しく誰かが呼びに来る前に食堂に姿を見せた。
長い間身の回りの世話をしていた屋敷しもべのチャンドラーを亡くし、意気消沈していると思っていた皆は、思ったより元気そうなクリスの姿を見て驚きを隠せない様子だった。
「クリス……君、大丈夫なの?」
「ん?何がだ?」
「だって、屋敷しもべが殺さ――」
直接的な言い方をしたロンを、ハーマイオニーが鋭い眼光と肘鉄で黙らせた。これまでのクリスだったら、最後の家族とも呼べる屋敷しもべが無残な姿で殺された事に、大きなショックを受けて部屋でふさぎ込んでいるはずだろう。
だが今のクリスにそんな陰りは微塵も見えない。むしろ堂々として見えるくらいだ。
いったい何があったのかと訝しむ皆をよそに、クリスはひとり紅茶を楽しんでいた。
「ここの紅茶もまあ悪くはないな。ほんの少しブランデーを足せばもっと良いんだが……そう言えばクリーチャーはまだ見つからないのか?アイツが居れば済む話なんだが」
「あ、ああ、クリーチャーね。そう言えばどこに行ったんだろうね……」
ハリーが隣に座りながら、やや戸惑ったようにシリウスに視線を送った。シリウスは何か考える様に顎に手をやり、ちょっと大げさとも言える声で答えた。
「きっと屋根裏部屋だろう。探してないのはあそこだけだ」
「そうか、じゃあ明日にでも探すか。居たら便利だからな、アイツ」
そう言ってまた紅茶を一口飲むクリスに、一同は戸惑いを覚えながらも深く突っ込む事が出来なかった。
何があったにせよ、またあんな風に落ち込むクリスを誰も見たくなかったからだ。
それから間もなくして、シリウスが屋根裏部屋でホコリまみれになっているクリーチャーを発見した。
クリーチャーは相変わらずシリウス達の前ではブツブツ悪態をつき、クリスの前では気味が悪いほど愛想よくしていた。
ただハリーだけは、クリーチャーが前に比べて少し変わったと言っていた。
具体的に何が変わったのか聞くと、ハリーは「なんとなく」としか言わなかったので、さして問題は無いだろうと、クリスは気にも留めなかった。