第19章 真実
「あの……忘れたい記憶がある時、信長様ならどうしますか?」
忘れたい
忘れたくない
忘れられたくない…
どうしたら、この想いから逃れらるんだろう
「俺にはそのようなものはない」
信長様から帰ってきた答えが、身も蓋もなくて、
でも信長様らしくて笑える
「わからんな。なぜ、わざわざ記憶を捨てる必要がある」
「…私は…辛くて苦しい記憶なら…そんな思い出なら捨てた方がいいのかな…と…」
「つらい記憶というならば、俺はなおさら忘れん。忘却は、停滞と同じだからな」
「どういうことですか……?」
「記憶が経験を作り、経験が人を作る。であれば、記憶を忘れることは、己の経験を無駄にすることに他ならん」
信長様のいつも冷静な瞳が、私を観察するように捕えた。
「つらい記憶を経ることで、貴様は何も変わらなかったのか。
その記憶には、つらいことしかなかったか
その記憶を本当に貴様は忘れられるのか」