第2章 旅立ち
その夜から数週間後、松代は松蔵との子供を身籠った。松蔵はもちろん、テリ・ドルークの仲間たちも、松代の懐妊を喜んだ。お腹の子は元気そのもので、時折松代がうめくくらいに蹴ってくる。
「きっと男の子ね」
「ああ、そうだな」
二人が思っていた通り、元気な男の子が生まれた。おそ松と名付けられたその子は、仲間たちにも見守られ、すくすくと成長した。だが生粋のロック鳥とは違い、姿を変えることが出来ずにいた。
「なー、もういいって。そんな姿変えなくても、よくね?」
「馬鹿言うんじゃない。この世界では命に関わる」
「だからさぁ、皆が守ってくれるって!」
「自分一人の時に何かあったら、どうする?!」
「一人にならなきゃ、いいんだろ?それに父さんだって、俺がどうしたら姿変えられるか、わかんねぇじゃん。やめよ、やめよ」
皆に甘やかされて育ったおそ松は、すっかり努力しないようになってしまった。誰かが何とかしてくれる、そう考えるようになってしまっていた。
そんなある日のことだった。
「松代?!松代、しっかりしろ!」
松代が急に倒れたのだ。
「母さん?!」
「どうしたのかしら…。急に力が入らなくなって…」
「とにかく、横になってろ」
ベッドに寝かせると、松代は眠りについた。
「明日になれば、元気になるっしょ」
この期においても楽観的なおそ松に、ようやく周囲が危機感を感じ始めた。
「構いすぎたな……」
「ちやほやしすぎたわね…」
だがおそ松の本心は、心穏やかではなかった。つい強がってしまったが、松代が心配でならない。明日になれば元気になる、そう自分に言い聞かせていた。
しかしおそ松のそんな気持ちを嘲笑うかのように、松代の容態は変わらなかった。死んだように眠っている。色んな薬草を試してみたが、目を覚まさない。
「どうしたものか…」
「人間の場合の対処が、分からないわ」
「何とかならないのかよ?!」
「ありとあらゆる薬草を試したんだ。もう、打つ手がない」
ピクシーがはっとした顔をした。
「そうだわ!ゴールドドラゴンにお願いするしか、ないんじゃない?」
「それだ!!」
「ゴールドドラゴン?」
首をかしげるおそ松に、松蔵が説明した。
ゴールドドラゴンは、頂上が見えないほど高い山の頂きにいて、その頂上からこの世界全体を見下ろしている。