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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第8章 夏の華 ―ハイジside―




箱根駅伝―――。
中学の頃から夢見ていた。
あの大舞台で走る自分を。


高校時代の怪我に手術。
懸命にリハビリをしても以前のように走ることは叶わず、何もかもに見捨てられたような気持ちでいた。
弱かった…あの頃の俺は。
強がることすらできないほどに。


君と出会えたのは、絶望の中で拾った幸運のように思えた。
そばにいると心にポツリポツリと明かりが灯ってゆき、道の先を照らしてくれる。
そんな大切な存在になっていった、一人の女の子。

いつしか芽生えたこの感情との付き合い方は、三年の間に身につけたつもりだ。
踏み出してしまったら、きっと大きな代償を払わなければならなくなる。
夢を諦める、という代償を。



後先考えず想いを告げるには、俺の夢は大き過ぎる。



君への気持ちは、ずっと心の底に置いておこう。
そう、決めた―――。









「あれ?雨降ってきましたね」

舞ちゃんたちが此処へやってきて、二日目の夕方。
各々入浴を済ませ、夕食が出来上がるのを待っている間のことだ。
窓の向こうに目をやりながら、ムサが呟く。

午後の練習の時は晴れ渡っていた空。
清々しい青は茜色に変化する前に、灰色に覆われてしまった。
そこから降り注ぐ、大粒の雨。


良かった。一日が終わったあとで。
今日の練習中にこの雨だったら、かなり体力を消耗しただろう。


「葉菜子、舞のやつ傘持っていってないよな?」

「そう言えばそうだね」

キッチンから勝田さんたちの声が聞こえ、思わず反応した。

「え?舞ちゃんどこかに出掛けてるんですか?」

「ああ、昼間洗剤を買い忘れてな。使いに出したんだよ」

この白樺湖周辺は観光地でもあるため店はそれなりにあるが、一番近いコンビニへは徒歩で20分程かかる。

「俺、迎えに行ってきます」

「悪いな、ハイジ。頼むわ」

「いえ」

念の為タオルを一枚準備して、車の鍵を手に取る。


「ハイジ」


玄関で靴を履きいざ出掛けようとしたとき、背後から呼び止められた。


「……何だ?ユキ」


心配か?俺と舞ちゃんが二人きりになるのが。


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