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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第17章 大手町にて



「この10人は、運命の10人だ」
―――ハイジくんは以前、そう語った。
それは私にとっても同じだ。
この先みんなと過ごした日々を思い返すたび、もう一度あの頃に帰りたい、もう一度みんなと夢を追いたいと、心に哀愁を帯びることだろう。
アオタケのみんなは、一生胸に仕舞っておきたい宝物のような時間を、私にくれた。
二度と味わうことの出来ない頂点への軌跡を、一番近くで見せてくれた。

だからこそ私は、自分に言い聞かせながら生きていくのだ。
この10人のように美しくありたい、強くあらねば、と。



ありがとう、ハイジくん。
ありがとう、みんな。



ハイジくんが、満ち足りた笑顔でゴールテープを切る。


『寛政大、復路5位の快挙!5時間34分32秒で、見事、東京箱根間を走りきりました!』


カケルくんの腕に倒れ込んだハイジくんは、今までに見たことがないほど安らかな顔をしていた。
藻掻き続け、求め続けてきたハイジくんの夢が、叶った瞬間だ。



その数十秒後、東体大の選手がゴールして間もなくのこと。



『総合タイムが出ました!!東体大、寛政大に2秒及ばず!!初出場の寛政大学が、シード権を獲得!!』



まるで天からの声を思わせる悲願達成の報せに、息が出来なくなる。
それはどうやら、私だけではないらしい。
喜怒哀楽に富んだ寛政大のメンバーだけれど、私たちの輪の中は静寂に包まれた。
誰もが感極まり、一向に声が出せなくなる。
呼吸すら上手くいかないほどの涙が溢れ出し、身を震わせながら抱き合い、掌を合わせ、無言で互いを称え合った。

代わりに、今日ここに居合わせた大勢の観客が、みんなに祝福の言葉と拍手を送ってくれる。



ハイジくんは微笑んでいた。
もう、何の心残りもないとでも言うように。


「どうだ!見えたか、頂点は!?」


その言葉を合図にみんなは泣きながら笑い、ようやく歓喜の叫び声を上げた。














寛政大学長距離陸上部は、初出場の上、総合10位。
来年の箱根駅伝出場権を獲得した。





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