第13章 「また会えるように」/武田信玄
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真冬の寒い中俺は安土城下に来ていた。
憎き信長の領地で、
俺にとっては敵地ではあるが、
ここの町並みと品揃えの良さには感服する。
幸や佐助にはあまり目立ち過ぎるなと釘を刺されたが、
敵地でそんなことはしない。
そこまで阿呆ではないし、
敵地に侵入することなど今までに何度もしたこともあった。
とりあえず町を歩き回っていると、
前にとぼとぼと寒そうにしながらも、
なにか大事そうに抱えて歩いている佐助の同郷の友人
───俺が最近気になっている子が歩いていた。
「やぁ、そこにいるのは天女かい?」
そう言えば、
こちらに体ごと振り返って、
こちらを見上げて「あれ?信玄様?」と、
あまりにも無防備に見上げてくるのだ。
「偶然だな、こんなところで会うなんて」
本当は君を探して歩き回っていたのだが。
そんなことは敵陣の人間である俺にはそんなことを言う資格はない。
「信玄様こそ…どうして安土に?」
何故ここにいるのか。
その瞳はまっすぐと俺を見つめている。
この子は本当に素直だなと思うしかない。
「いや、安土は品揃えがいいからな。
甘味を少々……な」
本当は君に会いに来たのだが。
まぁそんなことを言っても、
この子はきっと冗談だと受け取ってしまうのだろう。
「あ~」
そう言うと、
なるほどといった顔をしている。
その顔には俺に対しての心配の色が見えた。
「気にするな。
幸なら佐助と一緒に安土の隠れ家にいるぞ」
と言って安心させるためにそう言った。
この子が心配しているのは俺の病のことだろう。
だがもう尽きる身だ。
本当のことを言って、
この子を悲しませるわけにはいかない。
「そうなんですね」
そう言うと安心したような顔をした彼女が、
本当に可愛らしいと思ってしまった。
この子は佐助と違ってすぐさま感情が表に出るのだ。
本当に、わかりやすい。
ついため息が出て、
「…君は優しいな」と無意識に呟いてしまった。
それに顔を上げて、
こちらを見上げてくる彼女にまた会えるようにと願いながら、
安心させるために、
そして愛おしいという感情を密かに乗せて、
微笑むことにした。
【the end】