第5章 哀しみの時
街はもうすぐ冬…。
街路樹の葉は色褪せ散りはじめていた。
彼女が来ないことは分かっている。
それでも俺は約束した待ち合わせの店へ来ていた。
窓際の席、窓の外、街行く人波が足早に過ぎて行く。
俺はそれをぼんやりと眺めながら溜め息をついた。
「ご注文は?」
店員に聞かれ、我に返りメニューに目を落とした。
「ミルクティーを…」
彼女の好きだった紅茶を頼む。
いつもの俺なら珈琲しか頼まないのだが…。
運ばれてきた紅茶の薫りが、ぽっかりと穴が開いた心を癒してくれるようだ。
ミルクティーの甘さが、ざらついていた気持ちを落ち着かせてくれる。
俺はまた、窓の外を眺めた。
街路樹の枝が揺れはじめ、行き交う人達は上着の襟を立てている。
その中に居ることのない彼女を捜す。
約束の日、約束の時間、約束の店…。
ただ、そこに居るはずの彼女は居ない。
俺は紅茶を飲み終わると店を後にした。
街はもうすぐ冬…。
街路樹の葉を散らす木枯らしが身に凍みる。
end