第419章 鯉よ来い
待ち合わせ場所に行くと、彼は何かを呼んでいた。
「来い、来い、来い、来い…」
「お待ちどうさま…
ねぇ、何呼んでるの?」
私が問い掛けると…。
「鯉だよ
ほら、あそこにいるだろ」
待ち合わせ場所には池があって、泳いでいる鯉を呼んでいると言う。
「普通、鯉って呼んでも来ないでしょ?」
「そりゃあそうだけど、待ってる間暇だったからさ…、もしかしたら来るかなぁと思って…」
ちょっと変な考え方をする彼…。
その出会いもやっぱり変な出会い方だった。
声を掛けてきたのは来たのは彼からだった。
「そこの顔の濃い君、僕と恋しないか?」
「はぁ?それ私の事?」
確かにラテン系とは言われるけど、あまりに失礼な彼にあからさまに嫌な顔をした。
しかし、彼はそんな事は意に返さず…。
「これから棺桶選びに行くんだけど一緒にどう?」
「か、かんおけ?…あの死んだら入るやつ?
えっ?あれって選べるの?」
私は動転して変な答えを返していた。
「日本の場合は焼いちゃうからそんなに種類はないけどね」
これって故意よね。
「あなた、わざと変なこと言って私の気を引くつもりでしょ!」
「そんな事ないけど…
棺桶って自分の身体が最後に入る物じゃない
勝手に選ばれるより、自分で選んでおいた方が良いと思わない?」
やっぱり変な奴だ。
「そんな、先の事なんか考えないわよ」
「そうかな…、今の人間なんていつ死んでもおかしくないんじゃない
交通事故とか、大地震とか、未知のウイルスとか…
危険が至るところにある世の中だと思うけど?」
確かにそうかも知れないけど…。
「でも、死んだらどんな棺桶か?なんか分からないじゃない!」
「う~ん、そうか…
でも、やっぱり自分が選んだお気に入りに入りたいと思わないか?」
そんな濃い言い合いをしてるうちに何故か意気投合してしまった。
もしかしたら私も変な奴なのかも知れない。
end