第413章 狐の嫁入り
今日は体調が優れず、店には臨時休業の張り紙を出した。
滅多に客が来ない骨董店、一日二日休んでも何ら問題はない。
久しぶりに家で一日を過ごす事になる。
昼下がり、二階にある自室の窓の外。
急に鉛色の雲が空いっぱいに広がると、雨がぽつりぽつりと落ちてきた。
狐の嫁入りか…。
昔の人は面白い表現をしたものだ。
今では天気予報が一時的な雨も予報するので、狐に化かされた気にはならないのが残念かも知れない。
ふと、目についた大小お揃いの紅色の傘、上から見るとまるでさくらんぼの様だ。
親子と思われる二人を見ていると、子供の頃を思い出す。
雨は嫌いではなかった。
傘を差して、長靴で水溜まりに飛び入る。
跳ねる水飛沫が楽しかった。
ザッと降った雨は夕方には嘘の様に上がり、青空を覗かせると東の空には綺麗に虹が掛かる。
庭を見下ろせば紫陽花は宝石のようにキラキラと輝く雨粒を纏っていた。
何杯目かの珈琲をカップに注ぐ。
窓を開ければ、珈琲の薫りに雨の香りが交じる。
虹も薄くなり出した。
狐は無事に住みかに帰ったのだろうか…。
そんなことを思いながら珈琲を飲む。
たまにはこんな休みも良いだろう…。
end