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千分の一話噺

第38章 キリギリス


り~~ん♪り~~ん♪

どこからか涼しげな鳴き声が聞こえてきた。
「鈴虫か…」
こんな都会の真ん中にも、まだいるんだな…。

否、気付かなかっただけだろう。
耳を澄ませば、鈴虫だけじゃない秋の虫達が合唱している。

「そういえば、上ばかり気にしていた…」
目まぐるしく変わる時勢に流され、仕事の成功だけが心を癒した。
しかし、それはあくまで一時的な安堵感でしかない。
心のそこから癒されるなんてことはなかった。


だが今は違う。


何の束縛もなく、勝手気ままに生きている。
もちろん自由の代償は安くない。
鈴虫じゃないが、『蟻とキリギリス』のキリギリスみたいなものだ。
結果を知っているのに、そんなキリギリスに憧れた。

世間から見ればドロップアウトしたとしか見られないだろう。
しかし、自分の意志で歩むなら、世間体など全く意味のない話しだ。

空を仰ぎ、風を感じ、自然に生きる。
都会じゃ難しいと思ったが、小さな自然は何処にでもある。

ただ、気がつかないだけさ。



end
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