第4章 開店
紅茶好きな友人から、紅茶専門の喫茶店を開いたと案内状が届いた。
俺は冷やかすつもりで店を訪れた。
「よう、開店おめでとう。
なかなか小洒落た店だな。」
店内は紅茶の良い薫りが心地好かった。
「珈琲好きな奴はお断りだ」
「だったら案内状なんか寄越すなよ」
軽口を叩いてカウンターに座った。
「しかし、なんで普通の喫茶店にしなかった?」
「紅茶は奥が深いんだよ。
知ってるか?イギリスでは、朝昼晩の食事だけじゃなく、起床時、午前午後の休憩にも紅茶を楽しむんだ。」
恒例の蘊蓄が始まった。
こうなると長いんだ…。
「ただ一人当たりの消費量ではアイルランドがイギリスを抜いて世界一となっているらしいがな。
日本では紅茶の語源はお茶の色からだけど、英語は茶葉の色からblack teaと言われてるんだぜ。」
「耳にタコだ、早く美味い紅茶を入れてくれ。」
俺は紅茶に詳しくないから、コイツが勧める紅茶を頼んだ。
「紅茶の入れ方にはISO 3103って国際標準があるんだ。
ポットは白の陶磁器か釉薬を塗った土器で、ポットの内側に緩くはまる蓋がなければならない。
大きなポットは、容量310ml以下で重量200g、小さなポットは、容量150ml以下で重量118gなければならない。
お湯100mlあたり、2gの茶葉をポットに入れ、お湯はポットの縁から4-6mmのところまで注ぐ。
硬水は使ってはならない。
茶葉の抽出時間は6分間である。
抽出された紅茶は、白の陶磁器か釉薬を塗ったカップに注ぐ。
ミルクを入れる場合、紅茶の温度が65-80℃であるなら、ミルクは紅茶を注いだ後に入れるのが望ましい。
これが国際標準なんだ。」
紅茶を入れながら延々と蘊蓄を垂れた。
俺は呆れて何も言えなかった。
だが、この蘊蓄が終わるとちょうど6分らしい。
「お前、毎回これを言ってるのか?客が逃げるぞ。」
「開店祝いに来てくれたお礼だ。
こんな堅苦しい入れ方したら美味い紅茶もまずくなる。」
「紅茶専門店が言う台詞か?」
俺達は顔を見合わせて笑った。
さて、こんな店が流行るのだろうか?
ただ俺は、コイツが入れた紅茶は美味いと思った。
end