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千分の一話噺

第262章 シンデレラデー


「はぁ…後二ヶ月か…」
私は来年、田舎へ帰る彼に着いていき、向こうで結婚式を挙げる事になっている。
彼はこの街の消防隊員だけど、田舎のお父さんが倒れたから家業を継ぐ決意をした。
私も会社を辞めて、今は家で花嫁修行中。

(私、これで良かったのかな?
彼の事は愛してるけど、田舎暮らしなんて想像が出来ないな…)
正直不安ばかりでマリッジブルーになりそう。
「えっ?何これ?」
私はネットである広告を目にする。

『貴女だけのガラスの靴を作りませんか?』

「ガラスの靴って…」
子供の頃に憧れたガラスの靴。
しかし、よく見ると製作に二ヶ月掛かると…。
「今からやればクリスマスには間に合うかも…」
そう思ったら居ても立ってもいられなかった。

『しばらく出掛けます』

私は家に置き手紙を残し、ガラス工房に向かっていた。
多分、いろいろなプレッシャーから逃げたかったのかも知れない。
ガラス工房はスマホも圏外な山の中で、二ヶ月泊まり込みで製作する事になっていた。

失敗を繰り返しながらも、私は夢中でガラスの靴造りに明け暮れた。
二ヶ月経ちクリスマスイブになっても完成出来なかった。
工房からは街のイルミネーションが華やかに見える。
彼の事が頭に浮かんだ。
「…絶対、怒ってるよね
破談になっちゃうかも…」
それでもガラスの靴は完成させたかった。
この苦労を乗り切れれば、彼の田舎での生活も楽しめると思ったから…。

大晦日、やっとガラスの靴が完成した。
私が帰りの支度をしていると、変な男が工房に私を尋ねてきた。
「あんたの彼氏から捜索依頼を受けてきた!すぐに帰るぞ!」
その男は探偵と名乗り私を車に押し込んだ。

家に帰ると彼が待っていた。
「ごめんなさい…」
私は消え入りそうな声で彼に頭を下げた。
「君が帰ってきたなら…
お帰り!」
「…うん、ただいま!」
彼は優しく抱きしめてくれた。

クリスマスには間に合わなかったけど、ガラスの靴だからシンデレラデーの今日の方が相応しいわね。


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