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千分の一話噺

第19章 揚羽蝶


『そういえば、揚羽蝶って最近見ないね』


東京でも私が住む多摩地域は自然も多かったので子供の頃は昆虫もたくさんいた。

街中でも、いつもひらひらと飛んでいた蝶々…。
特に揚羽蝶は華やかで美しく羨ましく思っていた。
今では揚羽蝶どころか、紋白蝶も紋黄蝶も見なくなった。


ひらひら、ひらひら…。


視界の端に蝶々らしき姿が見えた。
私は追い掛ける様に角を曲がると、そこは一面のお花畑。
「うそっ?なんで!?」
振り返ったけど、そこに街の姿はなかった。

『着いて来なさい』

どこからか声が聞こえた。
目の前を蝶が羽ばたいている。
「…揚羽蝶?」
ひらひらと飛ぶ揚羽蝶の後に着いていく。

一面のお花畑には色とりどりの蝶々が飛び回っている。
蝶の楽園なのかな?と思った。

「ここはどこなの?」
私は前を飛ぶ揚羽蝶に聞いてみた。
『ここは遠い過去の世界…
あなたは私を追って時を超えてしまったの』
蝶が話すというより、頭の中に声が響いた。
「時を超えた?私が?」
『もうすぐ出口ですよ』
目の前に虹色に光る場所が見えた。
私は少し立ち止まり、この素晴らしい景色を目に焼き付けた。
『さぁ早く、閉まってしまいますよ』
揚羽蝶を追って虹色の光りに飛び込んだ。


目の前を車が行き交う。
(…戻ってこれたんだ)
私は安堵感と同時に少しがっかりした。


ふっと見上げると揚羽蝶がひらひらと羽ばたいていた。



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