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千分の一話噺

第18章 CherryBlossom


麗らかな春の陽射し、とある公園の桜が見事に咲いていた。
その桜のすぐ脇にあるベンチで昼寝をしていた俺は誰かに呼び起こされた。

「あの~目を覚まして頂けますかぁ?」
「んぁ?…うわっ!」
高校生くらいの少女が俺の顔を覗き込んでいる。
「お、お、お、お前、誰だ?」
俺の問いに少女は微笑み桜の木を指差した。
「…?…桜?」
少女は軽く頷いた。
「桜ってどういうことだ?」
「ウフッ、私は桜の精ですからぁ…」
「はっ、ははは…
嘘吐つくんじゃねぇよ!」
少女は少し頬を膨らませる。
「嘘じゃないですよぉ
これ見てください」
そう言って俺の前にカードを差し出した。
「なんだ?こりゃ?
…第一種普通桜の精免許証?」
顔写真が付いている運転免許証のようなカードだった。
「まだ初心者なんですけどねぇ」
少女は免許証を仕舞いながら照れ笑いした。
(こいつ何考えてるんだ?
関わらない方が…)
「あぁ~今、関わらない方が良いって思ったでしょ」
少女は俺が思った事を言い当てた。
「な、なんでっ!?」
「桜の精ですから、分かるんですよぉ」
少女は当たり前の事のように答えた。

俄かには信じがたいが面白そうなので相手をする事にした。
「まぁいい、で、俺に何か用か?」
「せっかくなので桜をちゃんと見てほしいですぅ」
「は?見るだけ?」
俺はあまりに単純な事に目が点になっていた。
「そうですぅ~花見とか言って人は集まるけど、ほとんど見てくれなくて哀しいですぅ」
(…確かにこいつの言う通りだな)

俺はベンチに座り直して桜を見上げた。
「…なぁ、桜が散ったら桜の精はどうなるんだ?」
俺が振り向いたら少女の姿はなかった。
「また来年ってことか…」
俺はしばらくの間、桜を見上げていた。



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