第813章 麦わら帽子の思い出
今年も暑い。
気温が35度を超える猛暑日となると、あの嫌な蚊が活動出来ない。
暑くても唯一良いことだ。
まあ、デメリットの方が多すぎるのだが…。
「こら!帽子をかぶれ!」
俺が子供の頃は夏と言っても30度くらいだった。
「大丈夫だよ」
希に35度くらいになったが年に1日あるかないか…。
「バカヤロー!!ぶっ倒れてからじゃ遅ぇんだよ!」
親父は俺に麦わら帽子をかぶせた。
「健一、水筒持って…」
お袋が水筒を持たせる。
夏休みは親父の田舎に帰って墓参りをする。
山の麓の小さな町、家の裏手には雑木林と小川が流れていた。
薮蚊は多かったけど、雑木林にはカブトムシやクワガタもいたし、川で魚も釣れたし、夜には蛍も飛び交う。
俺は毎年、帰省を楽しみにしていた。
「バカヤロー、ご先祖様にちゃんと手を合わせろ」
墓参りでは親父によく怒られた。
子供の頃だし墓参りの意味もよく分かっていない。
早く遊びたいって思いが先走る。
中学になった頃には、友達と遊ぶ方が楽しくて帰省は面倒くさいと思うようになる。
高校生になるともう付いて行かなくなった。
じいちゃんが亡くなって、十数年ぶりに田舎に行った。
町は様変わりし、家の裏手にあった雑木林は住宅地となり、小川は両側コンクリートで固められ魚も泳いでいない。
アスファルトに熱気で陽炎《かげろう》が立ち、あの頃の夏の景色はどこにもなかった。
「ここってもっと涼しかったよな…
今年は尚更暑い…」
来年からはまた両親と帰省しようと思う。
end