第800章 赤い月
日本で気象観測が始まって約150年、その間に雛祭りの日に皆既月食は起こったことはなかった。
オカルト好きな友人はある古文書に注目していた。
『倭偽神伝《わぎしんでん》』
鎌倉時代に書かれたと思われる怪奇現象を集めた書物だ。
『天狗』や『河童』や『山姥』、コロナ禍で有名になった『あまびえ』っぽい妖怪のこと等も書かれているが、本の傷みが激しく読み取れるのは所々で詳細は分からない。
その中の一節に『三が並ぶ日に月が赤く染まる時、その者は目覚め…』と一文がある。
「三が並ぶ日って雛祭りしかない…
しかも月が赤く染まる皆既月食なんて、絶対今年の事だよな!」
友人は嬉々として俺に迫ってきた。
「ちょっ、ちょっと待て!
それが何だって言うんだよ?」
あまりの勢いに俺はちょっと恐怖感を覚えた。
「何って、絶対何か起こるだろ?
こんな面白そうな話、放っておけるか!」
「…でも、その文の前後は読めないんだろ?
『その者』ってなんだよ?どこに居るんだよ?」
いわゆる、当時の伝承や伝説的な話を纏めた本だから何も起こる訳がない。
「たぶん封印された妖怪的な奴じゃないのか?
どこかは分かんねぇけど…」
「鎌倉時代から800年は経ってるんだぜ
妖怪だって干からびてるよ」
俺はまるっきり信じていなかった。
そして、雛祭りの皆既月食が始まった。
殺戮の夜が…。
end