第784章 ハロウィンの夜には…
若い頃はハロウィンと言えば渋谷に行ってたけど、もうそんな元気はなかった。
「…若いってスゴいよね
何であんなバカ騒ぎが出来たのか不思議よ」
「先輩、まだまだ若いですよ」
後輩に気を使わせてしまった。
「あんたはデートでしょ?
渋谷に行くの?」
「行きませんよ
彼は人混み嫌いだから…」
彼女の彼氏は営業部期待のホープだ。
明るくて人当たりも良い営業向きな彼氏だ。
たぶん出世も早いと思う。
「あの、小林さん…」
退社しようとしていた私は呼び止められた。
三十も半ばになると、積極的にイベントへ行こうとも思わないし、誘われもしなくなった。
彼氏でもいれば全然違うんだろうけど、結婚も考えていた彼と二年前に別れてからは時間が止まったような生活をしていた。
「え?…山田くん?」
同期の山田くんは真面目だけど目立たない地味な人だ。
同期の男性の中では一番出世に遠い人だと思う。
「…今日ってハロウィンだけど空いてたら、飲みに行かないか?」
「うん…、空いてるけど?
…まさか、ハロウィンだから渋谷行こうとか言わないわよね?」
私は笑って答えたけど、今日は何かいつもと違う。
彼とは同期だからってこともあるけど、私の愚痴とか聞いてくれる飲み仲間みたいな人だ。
「…実は俺、課長になったんだ」
「本当に!?良かったじゃない!
おめでとう!」
出世に縁がないと思ってたから、本当に良かったと思った。
「それで突然なんだけど…
俺と結婚してくれないか!」
まさかの告白だった。
「え…………………えぇ!?
…まさか、ハロウィンの悪戯?」
「俺は真剣だ」
止まっていた時間が動き出した。
end