第768章 母の日には…
私が子供の頃、五月の晴れは初夏の陽気だった。
日差しは強くなり始めるがまだ湿気は少なく、日陰や頬撫でる風は涼しい。
母の日には躑躅が沢山咲いていた。
時は流れ、時代と共に天候もどんどん変わっていった。
日本の亜熱帯化は急速に進み、秋から春の期間が極端に短くなり、本州、四国、九州では桜が咲かなくなった。
躑躅も四月には終えて、五月には紫陽花が見頃となる。
はっきりとした梅雨時期もなくなり、雨は季節に関わらず常にゲリラ豪雨に気を付けなくてはならなくなった。
「おばあちゃん、これ!」
孫がカーネーションをくれた。
「まあ、綺麗ね
ありがとう…」
息子夫婦が母の日だからと食事に誘ってくれたのだ。
「…母さん、もう夏と変わらないんだから、ちゃんとエアコン使わないと熱中症なるからな
気を付けろよ」
孫がいる歳にもなれば、心配されるのはしかない。
「…分かってるわよ
買い物も朝か夕方にしてるし、昼間はちゃんとエアコン使ってるから…」
「…お義母さん、熱帯夜になったら夜もエアコン使って下さいね」
息子の嫁もよく気を使ってくれる。
息子には勿体ないくらいの良い嫁だ。
「おばあちゃん、いつまでも元気でいてね!」
「ありがとうね」
孫に言われるのは格別だ。
この子が母の日を迎える頃には、躑躅咲く初夏の季節になっていてほしいと願う。
end