第718章 遺言
うちのじいちゃんは口も悪く喧嘩っ早い頑固な江戸っ子気質だ。
ばあちゃんは10年前に癌でなくなったが、誰の手も借りず生きていくと一人暮らしをしていた。
そのじいちゃんが倒れた。
毎日通っていたデイセンターに来ないと職員から電話があって、母が家へ見に行ったら倒れていた。
すぐに病院へ搬送されたが、意識不明のまま一週間が過ぎた。
「良介!俺が死んだら派手に送り出してくれよ
しみったれた葬式なんてやったら化けて出るぞ!」
「じいちゃん、そんな縁起でもない事言うなよ」
「うるせえ!辛気臭い病院になんかにいつまでもいられるか!?
さっさと死んでばあさんの所へ行くぜ!」
「…じいちゃん!
……って夢かよ」
その日の夕方、病院から電話があり、じいちゃんは亡くなった。
家族が集まった時に夢の話をした。
「それ、私も見た…」
「…俺も見た」
「私も…」
母も父も妹も同じ夢を見ていた。
あの夢はじいちゃんの遺言だったようだ。
「…じゃあ派手な葬式ってどうする?」
みんな頭を悩ませた。
「う~ん…じいちゃん、江戸っ子だから祭りなんてどう?」
「祭りは葬儀場じゃあ出来ないわよ」
「…おじいちゃんって誕生日は節分だよね」
妹がナイスな事を思い出した。
「鬼は~外!福は~内!」
焼香の代わりに豆撒きをしてもらう事にした。
じいちゃんの遺言通り、派手で賑やかな葬式になった。
これならじいちゃんも化けて出ないだろう。
end