第620章 進歩
「今夜ってアレだっけ?」
「そうだよ」
「俺、苦手なんだよな…」
「知ってるよ」
「子供の頃、お前がお化けの格好で追いかけ回したからだぞ」
「トラウマってやつ?」
「それだけじゃないだろ!」
「…手が止まってるよ」
「う…分かってるよ…」
「じゃあ、そこ切って…」
「…だいたいお前は自由過ぎるんだよ」
「そんなことないでしょ?」
「これにしたって今までと手順が違う」
「新しい手法を試してるのよ」
「そんな必要あるのか?」
「それが進歩と言うものなのよ」
「進歩ねぇ…」
「まあ、君の頭にも分かるように説明しようか?」
「何だ?その上から目線は?」
「君の好きな蜂蜜はどうやって採ってるか知ってる?」
「人の話しを聞けよ!」
「昔は自然の蜂の巣を集めてたのよ
それじゃあ、効率が悪いから蜜蜂を飼うようになったの…」
「そのくらいは知ってる」
「集める手法を変えたから普通に食べられるようになったの…」
「だからって手術も同じだって言うのか?」
「同じようなもんよ」
「針で縫ってたのをテープやホッチキスに変わったとか?」
「それも進歩の一つよ
ハサミからメスになったり、今じゃ内視鏡でも手術出来るわ
新しい手法が出来れば、それだけ助かる命も増えるのよ」
「…俺には天才の考えなんて分からねぇな」
「じゃあ、今夜一緒に行こうね」
「だ、か、らぁ~、人の話しを聞けよ!」
end