第37章 五月雨と恋の天舞曲❥織田信長
「何を阿呆な事を言っている。」
「っ...」
(やっぱり呆れられたのっ...?)
そう思って更に身をすくめると...
「貴様を側に置いておくのは、当たり前だろう。」
「っえ...」
思ってもみなかった言葉が信長様から放たれて少し驚く。
思わず信長様を見るとその紅い目を優しく細めて私を見ていた。
「貴様が、寂しがっていたのは知っていた。それを承知で出掛けていたからな。だが....」
信長様はそこでひとつ止める。
そして私をじっと見つめると、
「...俺が寂しがっていないと、思っていたのか。」
「えっ....」
予想もしていなかった言葉に体が固まる。
すると信長様はふっと一つ笑って私を更に抱きしめた。
「貴様に触れられない日々が続いて...どれだけの苦痛を感じたか。きっと貴様が思っているよりも俺は貴様のことを愛している。」
「の、ぶながさま...」
信長様から紡ぎだされる言葉。
それに嘘はないと目を見ればすぐに分かった。
「俺は貴様のことを一番に大事だと思っているし、邪険に扱うこともない。だが...貴様が寂しいという思いをしているのを分かっていながらも遠征に行ったことは、謝らなければならないな。」
そう言うと信長様はそっと私の身体を離す。
「すまなかった、華。」
そして今度は空いた時間を埋めるようにぎゅうっと私を抱きしめた。
(ここでこんなふうに信長様の本音を聞けるなんて思ってもみなかったな。)
これまでの寂しかった気持ちなんて消え、今は幸福な気持ちで心が満たされる。
すると信長様はそっと私を見た。
「こうして仲直りした恋仲達は...これからどうすると思う。」
「...!」
それの意味することを分かって顔が赤くなる。
だけど私は素直に答えた。
「愛し合うと...思います。」
すると信長様はまた幸せそうに目を細めて、
「あぁ。そうだ。ならば俺達も...そうするべきだと思わぬか?」
信長様が全てを分かっているような目で私を優しく見つめる。
(うん、私も、信長様に愛されたいから...)
寂しさを乗り越えたこれからの時間に、
大きな期待を膨らませながら....
私はそっと信長様の首に手を回した。
終。