第10章 これは異能の所為/※森鴎外
心臓が、煩いくらいに鳴っている。
ところどころ破れたスーツ、弾切れの小銃、乱れた髪。
重い足取りで、魅月はよろよろと壁を伝って歩いていた。
単独任務を終えたことを伝えなければ、あともう少し。
敵対組織のボスと、最後に一騎打ちとなってしまった。
彼女が撃った最後の弾は見事に奴の心臓を破り、収束を迎えようとした。
だが、奴は事切れる直前に異能力のような何かを放った。
その何かは魅月の胸に撃ちこまれたのだった。
外傷も痛みもなく、こうして生きながらえているのだが、どうもさっきから頭がぼーっとして、足が上手く動かない。
心做しか、体温も高い気がする。
あとそれから…なんだか、今すごく…
回らない頭であれこれと考えていると、大きな扉の前まで来た。
警護をしていた構成員に、報告をしに来た旨を伝えると、すぐに扉のロックを解除してくれた。
「魅月さん、大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ」
え、と声をかけてくれた彼の方を見たが、彼の方が顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
「ちょっと疲れが溜まったみたいです、すみません。気を遣わせてしまって」
「い、いえお構いなく!」
完全に誘ってる顔だ…と彼は直感でそう思ってしまった。
いつもは凛とした佇まいで、部下からの信頼も厚く、仕事熱心な彼女が、こんなことになってるなんて…考えれば考えるほどに妄想がムクムクと風船のように膨らんでいく。
いやいや、今は仕事に集中せねば!と思い直すと、彼はわざとらしく咳払いをした。
「首領、魅月さんが戻りました。報告があるそうです」
扉をノックしてそう伝えると、中から「入っていいよ」と柔らかな声が聞こえてきた。
「さ、どうぞ!」
彼は慌ててそう言うと、早く中に入れと言わんばかりに扉を開けて手で示した。
「ありがとう」
苦しそうな笑顔でそう伝えられた彼の心臓は、もう爆発寸前だった。