第4章 Sweet time/森鴎外
今日、あの人は来るだろうか
確証のない出来事に胸を弾ませながら、ショーケースを丹念に磨く。
時々、よく顔を近づけて、汚れが残っていないか確認しつつ、布巾をしきりに動かした。
よく磨かれたショーケースには、色とりどりのお菓子が陳列されている最中だった。
ショートケーキはもちろん、ホールケーキや、マカロン、プリン等、奥の部屋から次々と運ばれてくる。
この店の看板商品は、牛乳をふんだんに使ったプリンだ。
白に近いクリーム色で、とろりとした舌触り。これを目当てに来る客も多く、ショーケースから常に出たり入ったりしていた。
魅月自身も、このプリンがお気に入りだった。月に1度、自分へのご褒美としていた。
先週来た、あの2人連れもこのプリンを購っていった。
初めて来店した時のことをよく覚えている。
ふわあっと、食紅がクリームに溶けていくように、3ヶ月ほど前のことを思い出す。
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最初見た時は、お人形さんみたいだなと思った。
その子は、可愛いほっぺをぷうっと膨らませて、連れの男性に何か文句を言っていた。
だが、ショーケースの中を見るなり、すぐに表情を輝かせ、「これ美味しそうね!これも可愛い!」と、次々にお菓子を指さしていた。
はいはい、と白衣を着た中年くらいの男性は、そんな様子をにこやかに眺めていた。
親子だろうか、そうに違いない。
こんなに可愛らしい娘がいたら、そりゃ甘々になるだろうと納得した。
「お姉さん、このチョコレートケーキと、いちごと抹茶のマカロンを1つずつと、プリンを2つ欲しいわ!」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
あぁ可愛い!
自分が彼女へあげる訳でもないのに、箱詰めにウキウキしてしまった。
注文通り詰め終わると、彼女に「こちら5点でよろしいでしょうか」と確認。「うん!」と嬉しそうな返事を貰ったのだから、これがきっと接客業の醍醐味なんだなあと思い、会計を進めた。
「合計で、1800円でございます」
今度は、男性の方に金額を伝えた。
彼は「わかりました」と言い、上等そうな黒い革の財布から、5000円札を取り出した。
それにしても、父親の方をよく見てみると、先程まで彼らを「親子」だと思ったら、あまり似ていないと感じた。
色んな家庭もあるしな、うんうん
と考え直し、お釣りを差し出した。